「PRSの精度はどのくらいですか」という質問に、一つの数字で答えることはできません。精度は疾患ごとに違い、同じ疾患でも研究によって比べている層、指標の種類、対象の集団が異なるからです。
たとえば、ある論文の「8.1倍」と別の論文の「2.5倍」は、そのまま大小を比べられる数字ではありません。前者は上位1%を中間の60%と比べた値で、後者は上位20%を下位20%と比べた値かもしれないからです。このレポートでは、Zene360の標準的な解析対象である疾患を中心に、原著論文が報告した数値を、比較の条件とあわせて一覧にしました。
このレポートの要点
- 1日本人での検証で倍率が大きいのは2型糖尿病(上位1%は中間60%の約8.1倍、横断研究の有病オッズ比)と前立腺がん(上位10%は中央20%の4.10倍、生検を受けた男性が対象)
- 2乳がん・大腸がん・脳梗塞・膵臓がんでは、上位20%は下位または中央20%の約1.8〜3倍
- 3PRSは年齢や生活習慣などの情報と組み合わせることで予測を上積みできる。AUC 0.8前後の報告値は、そうした統合モデルの値である
- 4日本人集団での検証が複数の疾患で進んでいる。精度の高さは、PRSの由来よりも日本人で検証されているかで確かめるのが確実
数値を比べる前に確かめたい3つの条件
PRSの論文に出てくる倍率や精度の数字は、次の3つの条件によって意味が変わります。表の数字を読むときは、それぞれの行でこの3点を確かめてください。
- どの層とどの層を比べたか:「上位20%と下位20%」「上位10%と残りの90%」「上位1%と中間の60%」など、比較の仕方は研究ごとに違う。基準にする層が低いほど倍率は大きくなる
- どの指標か:オッズ比(OR)は症例対照研究や横断研究で、ハザード比(HR)は前向きの追跡研究で使われることが多い。横断研究のオッズ比は「すでに罹患している人の割合」との関連で、将来の発症リスクの倍率とは同じではない
- AUCにPRS以外の変数が含まれるか:論文によっては、年齢・性別・遺伝的な集団構造(主成分)などを含むモデル全体のAUCを報告している。その場合、AUCの値がPRSだけの識別能を表しているわけではない
AUCそのものの意味と、なぜ「PRSを加えてどれだけ改善したか」を見る必要があるのかは、「AUCとは?」の記事で解説しています。
日本人を対象にした検証結果
日本人の集団でPRSを検証した研究の主な数値です。倍率の列は、比べた層が研究ごとに異なるため、行どうしで大小を比べないでください。
| 疾患 | 研究と対象 | 比べた層と倍率 | 識別能 | 読むときの注意 |
|---|---|---|---|---|
| 2型糖尿病 | Furukawaら 2025。J-MICC研究の日本人14,083人 [1] | 上位1%は21〜80パーセンタイルの約8.1倍(有病のオッズ比) | AUC 0.781(日本人由来PRS)、0.738(欧州由来PRS) | AUCはPRSに年齢・性別・地域・主成分を加えたモデルの値。横断研究のため、発症の予測ではなく有病との関連を見ている |
| 乳がん | Ohbeら 2023。JPHC研究の日本人女性、前向きケースコホート [2] | 上位20%は下位20%の2.47倍(年齢調整ハザード比) | C統計量 0.598(日本人由来)、0.586(欧州由来) | 別の日本人前向き研究では欧州由来のPRSのほうが高い性能だった(後述) |
| 大腸がん | Nakanoら 2025。JPHC研究の日本人、前向きケースコホート [3] | 上位20%は下位20%の約3倍(男性)、約2倍(女性) | 生活習慣モデルにPRSを加えるとC統計量が0.64→0.66(男性)、0.61→0.63(女性) | 104,677変異を用いたPRS。生活習慣モデルへの上乗せを確認 |
| 前立腺がん | Akamatsuら 2022。前立腺の初回生検を受けた日本人男性1,336人 [4] | 上位10%は40〜60パーセンタイルの4.10倍(年齢調整オッズ比) | — | 一般の男性ではなく生検を受けた男性が対象で、結果は生検でがんが見つかったかどうか |
| 脳梗塞 | Hachiyaら 2017。日本人の2つのデータセット [5] | 上位20%は下位20%の1.75倍と1.99倍(オッズ比) | 遺伝以外のリスク因子のモデルに加えると再分類指標(NRI)0.151 | 効果量は中程度 |
| 膵臓がん | Nakatochiら 2018。日本人の症例664人と対照664人 [6] | 上位20%は中央20%の1.98倍、下位20%は0.62倍(オッズ比) | AUC 0.61(5変異のみ)、0.63(喫煙と家族歴を加えたモデル) | 5変異の小規模なスコア。症例対照研究 |
表の中で倍率が大きいのは2型糖尿病と前立腺がんですが、どちらも条件つきの値です。2型糖尿病の8.1倍は、上位1%というごく一部を中間の60%と比べた横断研究の値です。前立腺がんの4.10倍は、すでに生検が必要と判断された男性の中での比較です。どちらも「一般の人が将来発症する確率が何倍になるか」を直接示した数字ではありません。
大腸がんの研究は、PRSが既存の情報にどれだけ上乗せできるかを示している点で参考になります。生活習慣の情報だけのモデルにPRSを加えると、C統計量は男女とも0.02上がりました。生活習慣だけでは分からない遺伝的な傾向を、PRSが補っていることを示す結果です[3]。
日本人以外の集団での結果
日本人での大規模な検証がこれから進む疾患では、欧州系や東アジアの他の集団での結果が参考になります。日本人に当てはめる際は、集団の違いを考慮して読み取ります。
| 疾患 | 研究と対象 | 比べた層と倍率 | 識別能 | 読むときの注意 |
|---|---|---|---|---|
| 冠動脈疾患 | Kheraら 2018。英国バイオバンクの欧州系 [7] | 上位5%は残り95%の3.34倍(オッズ比) | AUC 0.81 | AUCはPRSに年齢・性別・主成分・遺伝子型解析の種類を加えたモデルの値で、PRS単独の値ではない |
| 2型糖尿病 | Kheraら 2018。英国バイオバンクの欧州系 [7] | 上位10%は残り90%の2.49倍(オッズ比) | — | 日本人の研究(表1)とは比べた層が違う |
| 乳がん | Kheraら 2018。英国バイオバンクの欧州系 [7] | 上位1%は残り99%の3.36倍(オッズ比) | — | — |
| 肺腺がん | Blechterら 2025。東アジアの非喫煙者 [8] | 上位20%は下位20%の3.92倍 | AUC 0.640 | 非喫煙者の肺腺がんに限った値。喫煙者には当てはまらない |
| アルツハイマー型認知症 | Desikanら 2017。米国を中心とする欧州系のコホート [9] | APOE ε3/3の人の中で、上位10%は下位10%の3.34倍(ハザード比) | — | 発症年齢に関するハザード比。日本人での大規模な前向き検証は限られている |
| 肝細胞がん | Thomasら 2022。シンガポールの華人 [10] | 脂肪肝関連PRSの上位25%は下位25%の2.39倍(ハザード比) | — | 日本人のデータは脂肪肝のリスク予測(3変異でAUC 0.65)が中心 [11] |
冠動脈疾患のAUC 0.81は、PRSの精度としてよく引用される数字です。この値は年齢や性別を含むモデル全体の識別能なので、引用するときは「PRSを含むモデルのAUC」と添えるのが正確です[7]。なお、日本人を含む冠動脈疾患のゲノム解析では、日本人と欧州系のデータを合わせて作ったPRSが、どちらか一方のデータだけで作ったPRSより高い性能を示しています[12]。
日本人由来のPRSは欧州由来より優れているか
PRSは、元になったゲノム研究の集団と、使う人の遺伝的な祖先が近いほど性能が出やすいとされます。2型糖尿病では、同じ日本人集団で比べたとき、日本人のデータから作ったPRSのほうが欧州系のデータから作ったPRSよりAUCが高くなりました(0.781対0.738)[1]。
ところが乳がんでは、研究によって結果が分かれています。JPHC研究では日本人由来のPRSがわずかに上回りました(C統計量0.598対0.586)[2]。一方、J-MICC研究の日本人女性7,965人で6つのPRSを比べた研究では、欧州由来のPRS(313変異)が最も高い性能を示しています(年齢などで調整したモデルのC統計量0.69)[13]。この研究の著者は、祖先の一致よりも、元になった研究の規模の大きさが性能を左右している可能性を指摘しています。
どちらの研究も、日本人の集団で実際に検証することで、使うPRSの性能を確かめられることを示しています。
倍率を正しく伝えるために
- 倍率は集団の中での相対的な比較:「何%の人が発症するか」(絶対リスク)は、年齢別の罹患率などと組み合わせて推計する
- 比べた層を添えて伝える:比べた層や指標は研究ごとに違うため、「上位20%は下位20%の2.5倍」のように層を明示すると誤解を防げる
- 結果を行動につなげる:PRSで分かった傾向を、生活習慣の見直しや検診の受診につなげることで、予防への活用が広がる
よくある質問
PRSのAUCはどのくらいあれば十分ですか?
冠動脈疾患のPRSはAUC 0.81と聞きましたが、本当ですか?
「上位20%は2.5倍」とは、発症する確率が2.5倍という意味ですか?
日本人には日本人のデータで作ったPRSを使うべきですか?
出典
- [1] Furukawa T, et al. Comparison of polygenic risk scores for type 2 diabetes developed from different ancestry groups. NPJ Metab Health Dis. 2025;3(1):17
- [2] Ohbe H, et al. Development and validation of genome-wide polygenic risk scores for predicting breast cancer incidence in Japanese females: a population-based case-cohort study. Breast Cancer Res Treat. 2023;197(3):661-671
- [3] Nakano S, et al. Evaluating sex-specific prediction models for colorectal cancer risk using a genome-wide polygenic risk score and lifestyle factors in a Japanese population. Cancer Epidemiol. 2025;98:102878
- [4] Akamatsu S, et al. Clinical Utility of Germline Genetic Testing in Japanese Men Undergoing Prostate Biopsy. JNCI Cancer Spectr. 2022;6(1)
- [5] Hachiya T, et al. Genetic Predisposition to Ischemic Stroke: A Polygenic Risk Score. Stroke. 2017;48(2):253-258
- [6] Nakatochi M, et al. Prediction model for pancreatic cancer risk in the general Japanese population. PLoS One. 2018;13(9):e0203386
- [7] Khera AV, et al. Genome-wide polygenic scores for common diseases identify individuals with risk equivalent to monogenic mutations. Nat Genet. 2018;50(9):1219-1224
- [8] Blechter B, et al. Stratifying lung adenocarcinoma risk with multi-ancestry polygenic risk scores in East Asian never-smokers. J Natl Cancer Inst. 2025
- [9] Desikan RS, et al. Genetic assessment of age-associated Alzheimer disease risk: Development and validation of a polygenic hazard score. PLoS Med. 2017;14(3):e1002258
- [10] Thomas CE, et al. NAFLD polygenic risk score and risk of hepatocellular carcinoma in an East Asian population. Hepatol Commun. 2022;6(9):2310-2321
- [11] Kawaguchi T, et al. Risk estimation model for nonalcoholic fatty liver disease in the Japanese using multiple genetic markers. PLoS One. 2018;13(1):e0185490
- [12] Koyama S, et al. Population-specific and trans-ancestry genome-wide analyses identify distinct and shared genetic risk loci for coronary artery disease. Nat Genet. 2020;52(11):1169-1177
- [13] Hara M, et al. Predictive performance of breast cancer polygenic risk scores from diverse ancestries: a prospective study in Japanese women. Breast Cancer Res. 2026;28(1)
関連記事
遺伝子検査サービス Zene360
高精度ゲノム解析で体質リスクを可視化。
法人向け遺伝子検査サービスの詳細はこちらからご確認ください。