基礎知識
PRSは遺伝的なかかりやすさを相対的に評価する手法ですが、「将来病気になるかを言い当てる検査」ではありません。過大評価も過小評価もせずにPRSを位置づけるために、できることとできないことをはっきり分けて整理します。
ゲノ先生とミライさんの対話

先生役
ゲノ先生
遺伝や検査の仕組みを、根拠ベースでやさしく解説する案内役。

質問役
ミライさん
読者の疑問や不安を代弁しながら、理解を深めていく相談役。
ミライさん
ゲノ先生、PRSの仕組みはわかったんですけど、結局どこまで当たるものなんでしょうか。組合員さんに聞かれたら、正直返答に困りそうで……。
ゲノ先生
その悩みはとても健全だよ。まず大前提として、PRSは「当たる・外れる」で語るものではないんだ。宝くじの当選番号を予想する道具ではなくて、集団の中で自分がどのあたりに位置しているかを示すものさし、と考えるといい。
ミライさん
位置を示すものさし……。
ゲノ先生
そう。生活習慣病や一般的ながんは、遺伝要因、年齢、性別、生活習慣、環境、そのほかの要因が複雑にからみあって起こる。PRSが捉えているのは、そのうち多数の遺伝子が関わる部分だけなんだ。
ミライさん
一部分だけ、ということですね。じゃあ、PRSが得意なことは何ですか?
ゲノ先生
層別化だね。集団を「PRS上位10%」「中間層」「下位10%」というように分けて、それぞれの発症率を比べる。そういう研究がたくさん行われている。予防情報を一人ひとりに合わせて伝えたり、健診や検診への関心を高めたり、将来的にはリスクに応じたスクリーニングを検討したり。そういう使い方につながる可能性があるんだ。
ミライさん
逆に、できないことは?
ゲノ先生
大きく3つある。1つめ、発症を確定すること。高PRSでも発症しない人はいるし、低PRSでも発症する人はいる。2つめ、いま病気かどうかを診断すること。PRSは血糖値やPSA、画像検査や病理検査の代わりにはならない。3つめ、生活習慣や加齢の影響を打ち消すこと。遺伝的な素因は生涯ほぼ変わらないけれど、病気のリスク全体は年齢や生活習慣で変わっていくからね。
ミライさん
よく「この病気は遺伝率50%」と聞きますけど、PRSで半分は予測できるということですか?
ゲノ先生
そこは誤解が多いところ!遺伝率というのは、特定の集団・特定の環境において、その形質のばらつきのうち遺伝的な違いで説明できる割合を示す集団の統計量なんだ。個人の発症確率を直接あらわすものではないし、いまのPRSが遺伝的な要因をすべて捉えられているわけでもない。
ミライさん
「遺伝率50%=PRSで50%当たる」ではないんですね。
ゲノ先生
まったく別物だよ。それともうひとつ大事なのが、PRSを単独で使うのか、組み合わせて使うのか。研究や臨床応用では、PRSに年齢、性別、家族歴、BMI、喫煙歴、検査値などを組み合わせた統合リスクモデルが検討されている。
ミライさん
健保としては、どう位置づけるのがいいんでしょう?
ゲノ先生
「PRSだけで人を決めつけない」ことが第一。そのうえで、PRSを、健診結果や問診とは違う角度の情報、つまり生涯ほとんど変わらないリスク情報として位置づけるといい。健診が「いまの状態」を教えてくれるなら、PRSは「もともとの傾向」を教えてくれる。役割が違うんだ。
ミライさん
結局、PRSは使えるんですか、使えないんですか?
ゲノ先生
そこがいちばん大事な問いだけど、その二択で考えないほうがいい。何に使うかによって、必要な根拠の水準が変わるんだ。自己理解や健康リテラシー向上なら、結果の妥当性と説明の適切さがあればいい。行動変容の支援なら介入研究が要る。健診の受診勧奨なら受診率への効果、リスク層別化なら外部検証と識別能と較正、医療上の意思決定ならさらに高い水準の臨床的有用性の検証が必要になる。
ミライさん
「使えるか」ではなく「何に使うか」から考えるんですね。
ゲノ先生
その通り。目的を決めてから根拠を確かめる。この順番を守れば、PRSを過大評価することも、逆に食わず嫌いで切り捨てることもなくなるよ。
まとめ
- 1PRSは診断ではなく、集団の中での遺伝的素因の相対的な位置を示す層別化の手法
- 2高リスクでも発症しない人、低リスクでも発症する人がいる
- 3「使える/使えない」ではなく、何に使うかによって必要な根拠の水準が変わる
理解度チェック
「この病気の遺伝率は50%」という記述から言えることはどれですか?
APRSで発症の50%を予測できる
Bその人が発症する確率が50%である
C特定の集団・環境において、形質のばらつきの50%が遺伝的な違いで説明される
遺伝率は集団におけるばらつきの説明割合を示す統計量です。個人の発症確率や、PRSの予測性能を直接示すものではありません。
よくある質問
PRSが高いと必ず病気になりますか?
いいえ。PRSは集団の中での遺伝的素因の相対的な位置を示すもので、発症を確定するものではありません。PRSが高くても発症しない方は多く、逆にPRSが低くても発症する方はいます。生活習慣や環境、年齢など他の要因も大きく関わります。
PRSは健康診断の代わりになりますか?
なりません。健康診断や検査は現在の身体の状態を調べるもので、PRSは生まれ持った遺伝的な傾向を示すものです。役割が異なるため、PRSの結果を理由に健診や検診を控えることは適切ではありません。
参考情報
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