基礎知識
PRSは「どの集団のデータから作られたか」によって性能が変わります。欧州系集団に偏ったGWASをもとにしたPRSをそのまま別の集団に適用すると、予測性能が低下することが知られています。日本の加入者に提供するサービスを評価するうえで欠かせない視点を整理します。
ゲノ先生とミライさんの対話

先生役
ゲノ先生
遺伝や検査の仕組みを、根拠ベースでやさしく解説する案内役。

質問役
ミライさん
読者の疑問や不安を代弁しながら、理解を深めていく相談役。
ミライさん
ゲノ先生、PRSって海外の大規模研究をもとに作られているものが多いんですよね。それを日本人にそのまま当てはめて大丈夫なんですか?
ゲノ先生
とても良い視点だね。結論から言うと、そこは慎重に確認しないといけないところなんだ。これまでのGWASは、参加者が欧州系集団に大きく偏ってきた歴史がある。その偏りのまま作られたPRSを別の祖先背景の集団に当てはめると、予測性能が落ちることが知られているんだよ。
ミライさん
同じ人間なのに、どうして性能が変わるんですか?
ゲノ先生
理由はいくつかある。まず、SNPの型の頻度が集団によって違う。ある集団では珍しい型が、別の集団ではありふれている、ということが起こる。次に、近くにあるSNP同士が一緒に受け継がれる関係、専門用語で連鎖不平衡(LD)というんだけど、そのパターンも集団ごとに違うんだ。
ミライさん
……ということは、目印にしていたSNPが、別の集団では目印として働かない、ということですか?
ゲノ先生
まさにそういうこと。GWASで見つかるSNPの多くは、本当の原因そのものではなく、その近くにある「目印」であることが多い。目印と本体の結びつきが集団によってずれると、同じ重みづけがうまく機能しなくなる。それに加えて、生活習慣や環境、病気の診断のされ方も違うからね。
ミライさん
この話、論文でも指摘されているんですか?
ゲノ先生
Nature Geneticsに載ったMartinらの研究が有名だよ。欧州系に偏ったデータで作られたPRSをそのまま臨床で使うと、かえって健康格差を広げかねない、という重要な指摘をした論文なんだ。
ミライさん
じゃあ「日本人のGWASを使っています」と書いてあれば安心ですか?
ゲノ先生
そこがもう一段深いところでね。日本人データを使っていること自体は大事な前提なんだけど、それだけでは十分じゃないんだ。同じデータでモデルを作って、同じデータで性能を測ったら、成績は良く出るに決まっているよね。
ミライさん
あ、テスト問題を見ながら勉強するようなものですね。
ゲノ先生
うまいたとえだ!だから必要なのが検証なんだけど、ここも段階が分かれていてね。同じデータをランダムに分けて一部を取り置き、それで確かめるのは、ふつう内部検証と呼ばれる。外部検証というのは、別の時期、別の地域、別の施設、別の研究といった、開発に使ったのとは異なるデータソースで性能を確かめることを指すんだ。初見の問題を、しかも別の学校のテストで解かせて、はじめて実力がわかるということだね。
ミライさん
事業者さんには、どう聞けばいいですか?
ゲノ先生
4つ聞けば十分だよ。このPRSのもとになったGWASはどの集団か。日本人を対象にした検証はあるか。作ったデータと検証したデータは独立しているか。そして、公開している性能指標は何か。ここに答えられるかどうかで、かなり見えてくる。
ミライさん
逆に、答えられない場合は……。
ゲノ先生
「言えない」ことと「まだ検証していない」ことは違うからね。そこも含めて率直に説明してくれる事業者かどうか、が判断材料になるよ。それと、検証の位置づけを隠さずに示しているかも見てほしい。自社データでの検証なら「自社データ検証」とはっきり書いたうえで、日本人集団での結果を学会などで報告している。これは誠実な姿勢だし、確認できる情報が増えるという意味でも価値がある。ただし、それで外部検証まで済んだことにはならない。独立したデータソースでの検証があるかどうかは、別の質問として聞いてほしいんだ。
ミライさん
ひとつ気になったんですが、「日本人だから遺伝子も同じ」という考え方は正しいんですか?
ゲノ先生
大事な確認だね。遺伝学では、自己申告の民族と、地理的な祖先と、遺伝的な類似性は、それぞれ別の概念として扱うんだ。日本人という枠の中にも多様性はあるし、逆に国境と遺伝的な近さは一致しない。だから「日本人だから同じ」ではなく、「研究の対象になった集団と、実際に検査を受ける人たちがどれだけ近いか」で考えるほうが正確なんだよ。
ミライさん
国籍ではなく、研究集団との近さ……。覚えておきます。
ゲノ先生
近年のPRSの報告基準でも、研究の対象集団をどう定義したかを明示することが強く求められている。逆に言えば、この点をきちんと書いているサービスや論文は、それだけで信頼度が高いということだよ。
まとめ
- 1欧州系に偏ったGWASをもとにしたPRSは、他の集団では予測性能が下がることが知られている
- 2「日本人データ使用」だけでは不十分。同一データの分割(内部検証)と、別データソースでの外部検証は区別する
- 3「日本人だから同じ」ではなく、研究対象集団と受検者集団の近さで適合性を判断する
理解度チェック
PRSの「外部検証」とは何を指しますか?
A論文が査読を通ること
B別の時期・地域・施設・研究など、開発に使ったのとは異なるデータソースで性能を確かめること
同じデータのランダム分割による評価は通常「内部検証」と呼ばれます。外部検証は、開発に用いたのとは異なるデータソースでの評価を指し、実際の適用場面での性能を見るうえでより重要です。
C同じデータをランダムに分割し、取り置いた一部で性能を確かめること
よくある質問
海外で開発されたPRSは日本人には使えないのですか?
使えないと断定はできませんが、そのまま適用すると予測性能が低下する可能性があります。SNPの型の頻度や連鎖不平衡(LD)の構造、環境要因が集団によって異なるためです。日本人を含む集団での検証結果が公開されているかを確認することが重要です。
PRSの性能を確認するとき、事業者に何を聞けばよいですか?
①もとになったGWASの対象集団、②日本人集団での検証の有無、③構築データと検証データが独立しているか、④公開されている性能指標(AUC、オッズ比、キャリブレーションなど)の4点を確認するとよいでしょう。
参考情報
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