基礎知識
PRS(ポリジェニックリスクスコア)の説明には、必ずといってよいほどGWASという言葉が登場します。GWASはPRSの土台となる研究手法であり、ここを理解すると「この検査の根拠は十分か」を自分で判断できるようになります。
ゲノ先生とミライさんの対話

先生役
ゲノ先生
遺伝や検査の仕組みを、根拠ベースでやさしく解説する案内役。

質問役
ミライさん
読者の疑問や不安を代弁しながら、理解を深めていく相談役。
ミライさん
ゲノ先生、PRSの説明を読んでいたら「GWASにもとづいて」という言葉が何度も出てきました。GWASって何ですか?
ゲノ先生
GWAS(ゲノムワイド関連解析)は、PRSの土台になる研究のやり方のことだよ。ゲノム全体を端から端まで見渡して、「この病気の人に多く見られる場所はどこか」を統計的に探す研究なんだ。
ミライさん
探偵みたいですね。
ゲノ先生
いいたとえだね。具体的には、その病気になった人たち(症例群)と、なっていない人たち(対照群)を大勢集めて、ゲノム上の何十万、何百万というSNPを一つひとつ比較する。あるSNPの型が症例群に明らかに多ければ、その付近が病気と関係している可能性が浮かび上がるわけ。
ミライさん
どのくらいの人数を集めるんですか?
ゲノ先生
数万人から、大規模なものだと100万人規模になることもあるよ。
ミライさん
そんなに!なぜそこまで必要なんですか?
ゲノ先生
生活習慣病や一般的ながんの場合、SNP1つあたりの影響はとても小さいんだ。オッズ比でいえば1.05とか1.1とか、その程度。小さな差を偶然と区別するには、大人数が必要になる。しかも何十万カ所も同時に検定するから、たまたま差が出てしまう場所も必ず現れる。だからGWASでは、よく使われるp<0.05ではなく、5×10のマイナス8乗(0.00000005)という桁違いに厳しい基準を使うんだよ。
ミライさん
とても慎重なんですね。それで、GWASの結果がどうやってPRSになるんですか?
ゲノ先生
GWASからは、SNPごとの「効果量」、つまりどのくらいリスクに影響するかの重みが得られる。PRSは、その人が持っているリスク型の数に、それぞれの重みを掛けて、全部足し合わせたものなんだ。1つ1つは小さくても、何千、何万と積み上げると、集団の中での相対的な位置が見えてくる。
ミライさん
塵も積もれば、ですね。
ゲノ先生
まさに。ただし気をつけてほしいことがある。GWASでわかるのは「関連がある」ということであって、「その遺伝子が原因だ」とは限らないんだ。すぐ近くにある本当の原因を、たまたま一緒に検出しているだけ、ということもある。
ミライさん
関連と原因は違う……。
ゲノ先生
そう。だから健保さんが事業者の資料を見るときは、「論文があります」で終わらせないでほしい。確認したいのはこの7つ。対象の病気の定義、症例と対照の人数、参加者はどの集団か、PRSを作ったデータと性能を確かめたデータが分かれているか、別の集団でも再現されているか、効果量と信頼区間、そして研究自身が挙げている限界だよ。
ミライさん
統計の中身までは、正直わからないんですけど……。
ゲノ先生
全部を理解する必要はないよ。大事なのは「サービスが表示している結果と、根拠となる論文が、たどって対応づけられるか」。論文の本数が多いことより、そのつながりが見えることのほうがずっと重要なんだ。
ミライさん
論文の数を挙げているだけでは足りない、ということですね。
ゲノ先生
その通り。それにGWASは日々更新されていく研究分野でもある。新しいデータが加わればPRSも作り直されるから、いつ時点のどの研究にもとづくのかを明示している事業者は、それだけで信頼できるサインだよ。
ミライさん
あれ、でも遺伝子検査は「一度受ければ一生使える」と説明されますよね。作り直されるなら、また受け直しになるんですか?
ゲノ先生
いい引っかかり方だ!ここは混同されやすいから、はっきり分けておこう。変わらないのは遺伝情報そのもの。だから検体を採り直す必要は原則としてない。一方、更新されるのは解析のほうなんだ。新しい研究が積み上がれば、対象の疾患が追加されたり、スコアの算出方法が見直されたりする。同じ検体データから、より新しい解析結果を返せる、ということだね。
ミライさん
再検査ではなく、再解析なんですね。
ゲノ先生
そういうこと。だから加入者の方に説明するときも、「一生変わりません」と「結果が更新されることがあります」を並べて言うと矛盾して聞こえてしまう。「変わらないのは遺伝情報、更新されるのは解析」。この一文をあらかじめ用意しておくと、説明がぶれないよ。
まとめ
- 1GWASは症例群と対照群のSNPを大規模に比較し、病気と関連する場所を探す研究手法
- 2SNP1つあたりの効果は小さいため、数万人規模のデータと非常に厳しい有意水準が必要
- 3GWASでわかるのは関連であって原因とは限らず、表示結果と根拠論文の対応が追えるかが重要
理解度チェック
GWASで「あるSNPが病気と関連していた」という結果が意味することは?
AそのSNPが病気の原因であると確定した
BそのSNPまたは周辺の領域が、病気と統計的に関連している可能性が示された
GWASが示すのは統計的な関連です。実際の原因は近隣にある別の変異であることもあり、関連=原因ではありません。また関連が示されても、個人の発症が確定するわけではありません。
CそのSNPを持つ人は必ず発症する
よくある質問
GWASとPRSはどう違いますか?
GWASはゲノム全体を対象に、病気と関連するSNPを探す研究手法です。PRSはGWASで得られた多数のSNPの効果量を重みとして統合し、個人の遺伝的なかかりやすさを相対的にスコア化したものです。GWASが土台、PRSがその応用にあたります。
GWASで有意とされる基準はなぜ厳しいのですか?
ゲノム全体で何十万から何百万回もの統計検定を同時に行うため、通常のp<0.05では偶然による「関連あり」が大量に発生してしまいます。これを避けるため、GWASでは5×10のマイナス8乗という非常に厳しい基準が一般的に用いられます。
参考情報
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