基礎知識
「この病気の遺伝率は50%」と聞くと、多くの人は「自分が発症する確率が半分」と受け取ります。しかし遺伝率は、個人ではなく集団について語る統計量です。この一語の意味を正確に押さえると、遺伝子検査の結果の読み方が大きく変わります。
ゲノ先生とミライさんの対話

先生役
ゲノ先生
遺伝や検査の仕組みを、根拠ベースでやさしく解説する案内役。

質問役
ミライさん
読者の疑問や不安を代弁しながら、理解を深めていく相談役。
ミライさん
ゲノ先生、「2型糖尿病の遺伝率は◯%」という記事を読んだんですけど、これって私が発症する確率のことですか?
ゲノ先生
そこが最大の誤解ポイントなんだ。遺伝率は、個人について語る数字ではないんだよ。「ある集団の中で、その形質のばらつきが、どのくらい遺伝的な違いで説明できるか」を示す割合なんだ。
ミライさん
ばらつき、ですか。ちょっとイメージがつかめません。
ゲノ先生
身長で考えてみよう。ある集団の中で、背が高い人と低い人がいる。その違い、つまりばらつきのうち、遺伝的な差異で統計的に説明できる割合はどのくらいか。それが遺伝率なんだ。「遺伝が8割、環境が2割」というふうに原因をきれいに切り分けているわけではなくて、あくまで統計モデルの上での説明割合だよ。だから「あなたの身長の8割は遺伝でできている」という意味ではまったくない。
ミライさん
あくまで「人と人の違い」の話なんですね。
ゲノ先生
そこがポイント!しかも遺伝率は、集団や時代が変われば値も変わる。たとえば全員が同じ食生活をしている集団では、環境による差が小さくなるから、相対的に遺伝の割合が大きく見える。逆に生活環境の差が大きい集団では、遺伝率は小さく出る。
ミライさん
えっ、同じ病気でも数字が変わるんですか?
ゲノ先生
変わるよ。だから遺伝率を引用するときは、どの集団の、いつの、どんな研究による数字なのかがセットでないと意味がないんだ。
ミライさん
「遺伝率が高い病気は予防できない」ということでもないんですか?
ゲノ先生
それも大きな誤解だね。遺伝率が高くても、環境を変えることで発症を減らせる病気はたくさんある。有名な例が、遺伝的な要因が強く関わるとされる疾患でも、食事や運動の介入で発症が抑えられるという研究だよ。遺伝率は「変えられなさ」を示す数字ではないんだ。
ミライさん
それは安心しました。ちなみに「家族に糖尿病がいる」というのは、遺伝率とは違う話ですか?
ゲノ先生
別の話だね。家族歴は、遺伝的な素因も、共有している生活習慣も、両方まとめて反映した情報なんだ。同じ食卓を囲んで、同じような運動量で暮らしていれば、それだけでもリスクは似てくる。だから家族歴とPRSは、重なる部分もあるけれど、まったく同じものではない。
ミライさん
両方を見る意味があるんですね。
ゲノ先生
そう。実際、家族歴とPRSを組み合わせたほうが予測がよくなるという研究もある。健保さんの保健指導でも、問診の家族歴とPRSは「どちらか一方」ではなく、補い合う情報として扱うのがいいと思うよ。
ミライさん
遺伝率という言葉、これからは慎重に使います。
ゲノ先生
いい心がけだね。もうひとつ専門的な補足をしておくと、発症するかしないかという二値の病気の場合、遺伝率には観測尺度で計算したものと、liability(罹患しやすさ)尺度に変換したものがあって、値が変わるんだ。論文の数字を引くときは、どちらの尺度かも確認できるとより正確だよ。それから、加入者向けの資料では、遺伝率という言葉を使わずに説明しきってしまう、というのも立派な選択肢だと思う。誤解される可能性が高い言葉は、無理に使わないほうが親切なこともあるからね。
まとめ
- 1遺伝率は統計モデル上のばらつきの説明割合であり、個人の発症確率でも原因の切り分けでもない
- 2遺伝率は集団や環境によって変わるため、どの研究の数字かが重要
- 3遺伝率が高い=予防できない、ではない。家族歴は遺伝と生活環境の両方を含む
理解度チェック
遺伝率について正しい説明はどれですか?
A同じ病気なら、どの集団でも遺伝率は同じ値になる
B対象とする集団や環境が変われば、遺伝率の値も変わる
遺伝率は特定の集団・環境における「ばらつきの説明割合」なので、集団や環境が変われば値も変わります。また遺伝率が高いことは、予防が不可能であることを意味しません。
C遺伝率が高い病気は生活習慣では予防できない
よくある質問
遺伝率50%とは、発症確率が50%という意味ですか?
いいえ。遺伝率は、ある集団における形質のばらつきのうち、遺伝的な違いで説明できる割合を示す統計量です。個人が発症する確率を示すものではありません。
家族に同じ病気の人がいると、必ず発症しますか?
必ず発症するわけではありません。家族歴は遺伝的な素因と共有された生活習慣の両方を反映した情報で、リスクが相対的に高い傾向を示すものです。生活習慣の改善や適切な健診によって、リスクへの備えは可能です。
参考情報
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