基礎知識
「遺伝子を調べる」と一口に言っても、使う装置は一つではありません。PCR、マイクロアレイ、シーケンサー(NGS)。この3つは優劣の関係ではなく、何を、どれだけ広く、どう読むかという役割が違います。それぞれの仕組みと向き・不向きを押さえると、遺伝子検査のサービスを比べるときに「数の多さ」だけに惑わされなくなります。

ゲノ先生とミライさんの対話

先生役
ゲノ先生
遺伝や検査の仕組みを、根拠ベースでやさしく解説する案内役。

質問役
ミライさん
読者の疑問や不安を代弁しながら、理解を深めていく相談役。
ミライさん
ゲノ先生、遺伝子検査の資料を読んでいると、PCRとかマイクロアレイとかNGSとか、いろいろな言葉が出てきます。これって、どれが一番いい技術なんですか?
ゲノ先生
あー、そこは僕も最初つまずいたところだよ。実はこの3つ、「どれが優れているか」ではなくて「何をするための道具か」が違うんだ。何を、どれだけ広く、どう読むか。そこが分かれ目だよ。
ミライさん
道具が違う……。じゃあ、まずPCRから教えてください。コロナ禍でよく聞いた言葉です。
ゲノ先生
PCRは、狙った特定のDNA領域だけをコピーして、信号を強めてから確認する方法だね。熱を上げ下げするサイクルを繰り返すと、目的の領域が倍々に増えていく。ごく微量しかないDNAでも、増やせば検出できるようになる。
ミライさん
だから、ウイルスがほんの少しでも見つけられるんですね。
ゲノ先生
うん、まさにそれ。PCRの得意は、速い・安価・高感度の3つ。既知の変異を確認したい、調べる項目が少ない、すぐ判定したい。そういう場面にとても向いている。逆に苦手なのは、見る場所が少ないこと。狙った場所しか見ていないから、想定していなかった未知の変異を探す用途には向かないんだ。
ミライさん
「狙い撃ち」の道具ということですね。では、マイクロアレイは?
ゲノ先生
マイクロアレイは、たくさんの既知マーカーを一度に調べる方法だよ。小さなチップの上に、調べたい配列に対応する「プローブ」という短いDNAを何十万〜何百万種類も並べておく。そこにサンプルのDNAを流すと、配列が合う場所どうしがくっつく。どこがどれだけ光ったかを読み取って、その人の遺伝型を判定するんだ。
ミライさん
答え合わせの用紙みたいですね。あらかじめ用意した場所と照合していく感じ。
ゲノ先生
その感覚、すごく近いと思う。だから得意なのは、多数の既知SNPを低コストで一括測定すること。SNP解析、祖先解析、そしてPRS(ポリジェニックリスクスコア)の基盤データを取るのは、まさにこの用途だよ。一方で苦手なのは、未知の変異や、細かな配列の違いを発見すること。用意していないプローブの場所は、そもそも見ていないからね。
ミライさん
なるほど。じゃあ最後、シーケンサーですね。
ゲノ先生
シーケンサー、いまの主流はNGS(次世代シーケンサー)だね。これは塩基配列そのものを直接読み取る装置なんだ。DNAを細かい断片にして、それを大量並列で一気に読み、コンピュータ上でつなぎ合わせて配列を決める。
ミライさん
照合するんじゃなくて、文章をそのまま読んでいくイメージですか。
ゲノ先生
うん、そのイメージで合ってるよ。だから情報量が圧倒的に多いし、事前に想定していなかった未知の変異にも強い。がんのパネル検査、全エクソーム解析、全ゲノム解析、希少疾患の原因変異探索。こういう「読んでみないと分からない」領域はNGSの独壇場だよ。
ミライさん
それなら、全部NGSでやればいいような気もしますが……。
ゲノ先生
それがね、NGSにも苦手があって。費用と解析負荷が大きいんだ。そして、目的によっては過剰になることなんだ。全ゲノムを読めば約32億文字ぶんのデータが出てくる。保管にも解析にも人手にもコストがかかる。もともと「どの場所を見ればいいか」が分かっている解析に全ゲノムを使うのは、住所が分かっている家を訪ねるのに、街全体の地図を一から作り直すようなものなんだ。
ミライさん
目的に対して、道具が大きすぎるということですね。
ゲノ先生
うん、その言い方がいちばんしっくりくるかも。整理すると、読む範囲はPCRが狭く、マイクロアレイは広いけれど既知が中心、NGSがいちばん広い。未知の変異探索はNGSだけが高くて、あとの2つは低い。データ量とコストは、PCR、マイクロアレイ、NGSの順に大きくなる。目的に応じて、最適な技術は変わるんだ。
ミライさん
ちなみに、Zene360はどの技術を使っているんですか?
ゲノ先生
Zene360はマイクロアレイだよ。PRSは、一つひとつの影響はごく小さいSNPを、何十万・何百万か所ぶん足し合わせて計算する。つまり必要なのは「未知の変異を発見すること」ではなく「既知のSNPを、多数、安定して、安く測ること」なんだ。この目的には、マイクロアレイがいちばん素直に合っている。
ミライさん
でも、マイクロアレイは「用意した場所しか見ていない」んですよね。それだと足りないのでは?
ゲノ先生
お、そこ気になるよね。僕も同じところが引っかかった。そこを埋めるのがImputation(遺伝子型補完)という工程なんだ。ヒトのゲノムでは、近くにあるSNPどうしが一緒に受け継がれやすい(連鎖不平衡)という性質がある。だから、実際に測った場所のパターンと、参照データ(リファレンスパネル)を照らし合わせれば、測っていない場所の遺伝型を統計的に推定できる。アレイで直接読んだ数十万か所から、解析に使える箇所を大きく広げられるんだよ。
ミライさん
アレイの「安さ」を保ったまま、見える範囲を広げられるということですか。
ゲノ先生
そうそう、そういう発想なんだ。しかもImputationの精度は、参照データがその集団にどれだけ合っているかで大きく変わる。日本人を対象にするなら、日本人のデータを含む参照パネルが要る。Zeneは独自のリファレンスパネルを使っていて、これが精度とライセンスコストの両面で効いている。マイクロアレイの価格帯のまま、WGSに迫るデータ密度に近づけていく、という考え方だね。
ミライさん
低コストと高精度って、相反するものだと思っていました。
ゲノ先生
両立できるのは、目的をPRSに絞っているからなんだ。何でも読める装置を使うのではなく、必要な情報を必要な密度で取りにいく。そのうえで、足りない部分を統計と参照データで補う。だから健保や企業が数千人・数万人規模で実施しても、費用が現実的な範囲に収まる。
ミライさん
逆に、Zene360では分からないこともありますよね。
ゲノ先生
もちろんあるよ。ここは正直に言っておきたいところでね。マイクロアレイ+Imputationは、頻度の低い変異や、その人に固有の新しい変異を捉えるのは苦手だ。だから、遺伝性のがんを調べる検査や、希少疾患の原因を特定する診断とは目的が違う。そういう領域はNGSと医療機関の役割なんだ。Zene360は、体質のリスク傾向を集団規模で可視化して、行動変容や保健事業につなげるための道具だよ。
ミライさん
道具の違いが分かると、比べ方も変わりますね。SNPの数が多ければいい、という話ではないんだ。
ゲノ先生
まさにそこなんだよね。僕がいちばん伝えたかったのも、たぶんその一言だよ。サービスを比べるときは、まず「どの技術で、何か所を、どう測っているか」、そして「Imputationを使っているか、その参照データは何か」を確認する。数だけを競わないこと。数は分かることの範囲を示すけれど、一項目ごとの根拠の厚みまでは表さないからね。
まとめ
- 1PCR・マイクロアレイ・NGSは優劣ではなく、何をどれだけ広く読むかという役割が違う
- 2マイクロアレイは多数の既知SNPを低コストで一括測定でき、PRSの基盤データに適している
- 3Zene360はマイクロアレイにImputation(遺伝子型補完)を組み合わせ、低コストと高精度を両立している
理解度チェック
PRS(ポリジェニックリスクスコア)の基盤データを取る用途に、マイクロアレイが適しているのはなぜですか?
A未知の変異を発見する能力がNGSより高いから
B多数の既知SNPを低コストで一括測定できるから
PRSは、一つひとつの影響が小さい既知のSNPを多数足し合わせて計算します。必要なのは未知の変異の発見ではなく、既知のSNPを多数・安定して・低コストで測定することであり、この目的にマイクロアレイが適しています。未知の変異探索はNGSの得意分野、少数項目の迅速判定はPCRの得意分野です。
C調べる場所が少なく、判定が最も速いから
よくある質問
PCR・マイクロアレイ・シーケンサーは、どれが一番精度が高いのですか?
目的が異なるため、単純な優劣では比べられません。PCRは狙った少数の領域を高感度・迅速に確認することに優れ、マイクロアレイは多数の既知SNPを低コストで一括測定することに優れ、シーケンサー(NGS)は塩基配列を直接読むため情報量が多く未知の変異にも強い、という違いがあります。用途に対して適切な技術を選ぶことが重要です。
Zene360はどの技術を使っていますか?
Zene360はマイクロアレイによるSNP解析を採用し、Imputation(遺伝子型補完)を組み合わせています。PRSの算出に必要なのは多数の既知SNPを安定して測定することであり、この目的にマイクロアレイが適しているためです。独自のリファレンスパネルを用いたImputationにより、マイクロアレイの価格帯を保ちながら解析に使える情報量を広げています。
マイクロアレイでは分からないことはありますか?
あります。マイクロアレイはチップ上に用意したプローブに対応する既知の場所を調べる方式のため、未知の変異や細かな配列差の発見、頻度の低い変異の検出は苦手です。遺伝性腫瘍の検査や希少疾患の原因変異の特定など、配列を直接読む必要がある領域は、NGSと医療機関が担う役割になります。
Imputation(遺伝子型補完)とは何ですか?
実際に測定していないSNPの遺伝型を、測定した箇所のパターンと参照データ(リファレンスパネル)から統計的に推定する技術です。近くにあるSNPどうしが一緒に受け継がれやすいという性質(連鎖不平衡)を利用しています。推定の精度は参照データが対象集団にどれだけ合っているかに左右されるため、日本人を対象とする解析では日本人のデータを含む参照パネルが重要になります。
参考情報
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