活用法
遺伝子検査を福利厚生として導入することと、会社が結果を取得することは、まったく別の話です。ゲノム情報が本人の不利益につながらないようにするために、企業と健保が押さえておくべき考え方を整理します。
ゲノ先生とミライさんの対話

先生役
ゲノ先生
遺伝や検査の仕組みを、根拠ベースでやさしく解説する案内役。

質問役
ミライさん
読者の疑問や不安を代弁しながら、理解を深めていく相談役。
ミライさん
ゲノ先生、遺伝情報による差別という言葉を最近よく見かけます。日本でも問題になっているんですか?
ゲノ先生
なっているよ。2023年に成立したゲノム医療推進法では、ゲノム情報による不当な差別等への適切な対応が、明確に政策課題として位置づけられている。ただし誤解しないでほしいのは、この法律は国に必要な施策を求める基本法・推進法だということ。あらゆる差別行為について直接の禁止規定や、一律の民事救済・罰則を設けた法律ではないんだ。そのうえで厚生労働省が、労働分野についてのQ&Aを公表している。
ミライさん
労働分野、というと採用のときの話でしょうか。
ゲノ先生
それが最初の論点だね。厚生労働省は、採用選考において遺伝情報は「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に含まれるとし、必要性のない情報を把握してはならない、という考え方を示している。
ミライさん
入社した後ならどうなんでしょう。健康管理のためなら集めてもよさそうな気もしますが……。
ゲノ先生
そこも明確でね。厚生労働省のQ&Aでは、労働安全衛生法に基づく健康管理のための情報として、労働者のゲノム情報を収集することはできない、と説明されている。「健康のためだから」という理由づけは通らないんだ。
ミライさん
えっ。ということは、福利厚生で遺伝子検査を導入するのも問題があるんですか?
ゲノ先生
ここがポイント!2つを分けて考えてほしい。福利厚生として受検の機会を提供することと、会社が結果を取得すること。この2つはまったく別なんだ。前者は、任意性が守られていれば十分にあり得る。問題になるのは後者だよ。
ミライさん
機会は提供する、でも結果は受け取らない。
ゲノ先生
その線引きができていれば、多くの懸念は解消する。そして当然だけれど、遺伝情報を採否、配置転換、解雇、昇格、昇給といった人事判断の材料にすることは、重大な問題を生じさせる。
ミライさん
そもそも会社が結果を持っていなければ、使いようもないですね。
ゲノ先生
まさにそこだよ。会社が個人結果を取得しないシステム設計は、情報漏えい対策としてだけでなく、目的外利用や不当な取扱いのリスクを構造的に減らす意味がある。ルールで縛るより、そもそも持たない設計のほうが強いんだ。
ミライさん
健保と会社は、どう区別して考えればいいでしょう。
ゲノ先生
健康保険組合と母体企業は、組織としても法的にも役割が違う。だから「企業向けサービス」とひとくくりにせず、本人、健保、事業主、検査会社、そして医療・保健の専門職。この5者それぞれについて、役割と閲覧できる範囲を明示することが大事なんだ。
ミライさん
加入者向けの説明文には、何を書けばいいですか?
ゲノ先生
6つ入れてほしい。受検は任意であること。受けないことで不利益を受けないこと。誰が個人結果を閲覧できるか。事業主へ個人結果が提供されるかどうか。何のために使うのか。そして問い合わせや削除の窓口。この6点が書いてあれば、加入者は安心して判断できるよ。
ミライさん
「受けないことで不利益がない」を明記するのは大事ですね。
ゲノ先生
実はいちばん効く一文かもしれない。任意と書いてあっても、職場の空気で受けざるを得ないと感じる人はいる。だからこそ、はっきり書く。本人のための情報を、組織の選別情報に変えない。この原則さえ守れば、遺伝子検査は安心して使える道具になるんだ。
まとめ
- 1ゲノム医療推進法は差別への対応を国の施策として求める基本法で、包括的な差別禁止規定を設けたものではない
- 2採用選考での遺伝情報の把握や、健康管理目的でのゲノム情報収集は認められないとされている
- 3福利厚生として受検機会を提供することと、会社が結果を取得することは分けて考え、任意性と不利益がないことを明記する
理解度チェック
企業が福利厚生として遺伝子検査を導入する場合の設計として適切なものはどれですか?
A健康管理のため、会社が全従業員の結果を取得して保管する
B受検機会は提供するが、会社は個人結果を取得しない設計にする
受検機会の提供と会社による結果の取得は分けて考える必要があります。会社が個人結果を取得しない設計は、目的外利用や不当な取扱いのリスクを構造的に減らします。
C受検を必須とし、結果を人事評価の参考情報とする
よくある質問
会社は従業員の遺伝子検査結果を見ることができますか?
厚生労働省のQ&Aでは、労働安全衛生法に基づく健康管理のための情報として労働者のゲノム情報を収集することはできないと説明されています。福利厚生として受検機会を提供する場合も、会社が個人結果を取得しない設計とすることが適切です。
加入者への案内文には何を明記すべきですか?
①受検が任意であること、②受検しないことによる不利益がないこと、③誰が個人結果を閲覧できるか、④事業主へ個人結果が提供されるか、⑤利用目的、⑥問い合わせ・削除等の窓口、の6点を明記することが望まれます。
参考情報
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