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健保は遺伝子検査結果をどこまで扱える?個人情報と同意の整理

活用法

費用を負担しているのは健保だから、結果も健保が見てよい。この発想は危険です。ゲノムデータの法的な位置づけ、健保に固有のガイダンス、そして「誰が何を見るのか」を分けて設計する考え方を整理します。なお本記事は法的助言ではありません。導入時は最新の公的資料を確認し、必要に応じて専門家のレビューを受けてください。

ゲノ先生ミライさんの対話

ゲノ先生のイラスト

先生役

ゲノ先生

遺伝や検査の仕組みを、根拠ベースでやさしく解説する案内役。

ミライさんのイラスト

質問役

ミライさん

読者の疑問や不安を代弁しながら、理解を深めていく相談役。

ミライさん
ゲノ先生、健保が費用を出して遺伝子検査を実施する場合、結果は健保が見てもいいものなんでしょうか。
ゲノ先生
ここは最初にきちんと線を引いておきたいところだね。費用を負担していることと、個人の結果を見てよいことは、まったく別の話なんだ。
ミライさん
別なんですね……。法律上はどう位置づけられているんですか?
ゲノ先生
よく「遺伝情報はすべて要配慮個人情報」と説明されるんだけど、実はもう少し精密なんだ。個人情報保護委員会のガイドラインでは、全ゲノムシークエンス、全エクソーム、全ゲノムSNPデータ、互いに独立した40か所以上のSNPから構成される遺伝型情報などを用いて、本人を認証することができるようにしたものが「個人識別符号」に該当するとされている。この「本人を認証することができるようにしたもの」という限定が大事でね。40か所以上のSNPを含んでいれば何でも該当する、という単純な話ではないんだ。
ミライさん
個人識別符号……。要配慮個人情報とは違うんですか?
ゲノ先生
違う概念だね。個人識別符号は「それ単体で個人を識別できる情報」という位置づけで、指紋データやパスポート番号と同じ枠。一方の要配慮個人情報は、病歴や信条など、不当な差別につながりかねない情報の枠だよ。
ミライさん
遺伝子検査の結果は、どちらになるんですか?
ゲノ先生
そこは条件によるんだ。個人情報保護委員会のFAQでは、消費者向けの遺伝子検査の結果について、医師等により行われ、かつ疾病の予防や早期発見のために行われた場合には要配慮個人情報に該当する、と説明されている。だから「遺伝情報だから自動的に要配慮個人情報」と断定するのは、正確ではないんだ。
ミライさん
思っていたより細かいんですね。
ゲノ先生
そう。だから実務では、個人情報なのか、個人識別符号にあたるのか、要配慮個人情報にあたるのか。この3つを分けて確認する必要がある。ひとまとめにしてしまうと、必要な手当てを見落とすことになるからね。
ミライさん
健保に特有のルールもあると聞きました。
ゲノ先生
あるよ。健康保険組合等については、個人情報保護委員会と厚生労働省による専用のガイダンスが出ている。一般企業向けのルールとは別に、健保としての取扱いが定められているんだ。改正もされているから、導入を検討するときは必ず最新版を確認してほしい。
ミライさん
具体的には、どう設計すればいいでしょう。
ゲノ先生
ここがポイント!まず第一候補として検討すべきなのは、健保も事業主も、個々の詳細なゲノム解析結果を保有しない設計だよ。加入者が申し込んで同意し、検体が検査事業者へ渡り、解析されて、本人向けの画面に結果が返る。この流れの中に、健保が個人結果を持つ必然性は必ずしもない。
ミライさん
では健保は何を受け取るんですか?
ゲノ先生
事業評価に必要な範囲だけだね。申込人数、受検完了人数、結果閲覧率、アンケート、そして集計された統計情報。これだけあれば、保健事業としての評価は十分にできる。そのうえで、保健指導などのために個別のフォローが必要な場合は、契約で共有の範囲を定めたうえで、その目的、本人からの同意、閲覧できる人の範囲、記録、保存期間を個別に設計する。共有すること自体が問題なのではなく、何のために、誰が、どこまで見るのかが決まっていないまま共有することが問題なんだ。
ミライさん
「匿名化しているから大丈夫」という説明はよく聞きますが、それでは足りませんか?
ゲノ先生
足りないね。氏名をIDに置き換えただけでは、一般には個人情報でなくなるわけではない。対応表が存在すれば再び結びつけられるし、そもそもゲノムデータ自体が個人識別符号に該当し得る。だから「匿名化しています」ではなく、何を分離しているのか、対応表は誰が持つのか、どういう権限で再照合できるのか、ゲノムデータそのものをどう管理するのか。ここまで具体的に説明できるかどうかが、最初の判断材料になるんだ。
ミライさん
データの流れを図にしてみるところから始めます。
ゲノ先生
それがいちばん確実な方法だよ。取得、閲覧、提供、保存、削除。この5つの場面ごとに、誰が何にアクセスできるかを図にする。図にできないところがあれば、そこが設計の穴だと考えていい。

まとめ

  • 1ゲノムデータ・個人情報・要配慮個人情報は同義ではなく、分けて確認する必要がある
  • 2費用負担者であることと個人結果を閲覧できることは別問題として設計する
  • 3健保も事業主も個人の詳細な解析結果を保有しない設計を第一候補に検討する

理解度チェック

健保が遺伝子検査を導入するときのデータ設計として、第一候補に検討すべきものはどれですか?

A費用負担者である健保が全加入者の個人結果を保有する
B健保も事業主も個人の詳細な解析結果を保有せず、事業評価に必要な統計情報のみを受け取る
個人結果を保有しない設計は、情報漏えいのリスクを減らすだけでなく、目的外利用や不当な取扱いのリスクを構造的に低減します。個別フォローが必要な場合は、目的・同意・閲覧権限を個別に設計します。
C事業主が結果を保有し、健保には共有しない

よくある質問

遺伝情報はすべて要配慮個人情報にあたりますか?
一律には決まりません。個人情報保護委員会のガイドラインでは、一定の遺伝型情報等を用いて本人を認証することができるようにしたものが個人識別符号に該当するとされ、消費者向け遺伝子検査の結果の要配慮個人情報該当性についても条件が示されています。個人情報・個人識別符号・要配慮個人情報を分けて、データの内容と利用形態まで含めて確認する必要があります。
健保が費用を負担すれば、個人の検査結果を見てよいのですか?
費用負担と個人結果の閲覧可否は別の問題です。閲覧の必要性、目的、本人同意、閲覧権限の範囲を個別に整理する必要があり、事業評価であれば統計情報で足りる場合がほとんどです。

参考情報

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