活用法
遺伝子検査でもっとも警戒すべき副作用は、高リスク結果による不安ではなく、低リスク結果による安心しすぎかもしれません。検診の受診控えにつながれば、事業の目的とは正反対の結果を招きます。
ゲノ先生とミライさんの対話

先生役
ゲノ先生
遺伝や検査の仕組みを、根拠ベースでやさしく解説する案内役。

質問役
ミライさん
読者の疑問や不安を代弁しながら、理解を深めていく相談役。
ミライさん
ゲノ先生、組合員さんに「低リスクだったから、今年は検診をやめようかな」と言われて、正直ドキッとしました。
ゲノ先生
それはとても重要な報告だよ。実は、遺伝子検査を保健事業に入れるときにいちばん警戒すべきなのは、高リスクの方の不安よりも、低リスクの方の安心しすぎなんだ。
ミライさん
高リスクの方のケアばかり考えていました。
ゲノ先生
多くの健保さんがそうなんだ。でも考えてみてほしい。人数でいえば、低リスクや平均的と出る方のほうが圧倒的に多い。もしその方々が少しずつ検診を控えるようになったら、事業全体としては、健康を害する方向に働いてしまう。
ミライさん
たしかに……。低リスクというのは、そもそもどういう意味なんでしょう。
ゲノ先生
「集団の中で、遺伝的な素因が相対的に低いほうに位置している」というだけの意味だよ。ここがポイント!ゼロではないんだ。低PRSの人も発症するし、実際、発症者の中には低リスク層の人がたくさん含まれている。
ミライさん
えっ、そうなんですか?
ゲノ先生
当然といえば当然でね。低リスク層のほうが人数が多いから、一人あたりの確率が低くても、発症者の実数としては相当な数になる。「めったに起きないこと」も、母数が大きければ普通に起きるんだ。
ミライさん
確率の低さと、実際に起きる人数は別なんですね。
ゲノ先生
そう。それに忘れてはいけないのが、PRSは遺伝的な素因しか見ていないということ。喫煙も、体重も、年齢も、感染も、環境も、PRSには入っていない。低PRSでも、生活習慣によっては十分に高いリスクを抱えることになる。
ミライさん
公的な検診については、どう説明すればいいでしょう。
ゲノ先生
「PRSが低いことだけを理由に、推奨されている検診を受けないという判断はしないでください」と、はっきり書くのがいい。いまの検診制度は、年齢や性別といった条件で対象を決めている。そこにPRSは入っていないんだ。
ミライさん
将来的には変わる可能性もあるんですよね。
ゲノ先生
その通り。PRSを使って検診の開始年齢や頻度を個別化する研究は進んでいる。でもそれは「研究として期待されていること」であって、「いま標準的に推奨されていること」ではない。この2つは、資料の中で必ず書き分けてほしい。
ミライさん
実務では、どこに手を打てばいいでしょうか。
ゲノ先生
3か所だね。結果画面、送付する冊子、そしてFAQ。この3つすべてに、低リスク層向けの一文を入れる。「低リスクは、発症しないという意味ではありません」「検診の受診は、これまでどおり続けてください」。この2文があるだけで、受診控えはかなり防げるよ。
ミライさん
高リスクの方への配慮と同じくらい、低リスクの方への説明が大事なんですね。
ゲノ先生
そこに気づけたなら、この事業はうまく設計できると思うよ。むしろ、自社サービスにとって都合の悪く見える説明をきちんと書いておくことが、長い目で見れば信頼につながるんだ。
まとめ
- 1低PRSはゼロリスクではなく、発症者の中には低リスク層の人が多数含まれる
- 2PRSは遺伝的素因しか見ておらず、喫煙・体重・年齢などの要因は反映されない
- 3結果画面・冊子・FAQの3か所に、受診控えを防ぐ一文を必ず入れる
理解度チェック
PRSが低リスクと出た場合の説明として適切なものはどれですか?
A発症の可能性は極めて低いため、検診の間隔を延ばしてよい
B相対的に素因が低いという意味であり、公的な検診はこれまでどおり受ける
低リスクは集団内での相対的な位置を示すもので、発症しないことを意味しません。公的な検診は年齢・性別等に基づいて設定されており、PRSを理由に自己判断で控えることは適切ではありません。
C生活習慣に気をつける必要はなくなる
よくある質問
遺伝子検査で低リスクなら、がん検診は受けなくてよいですか?
いいえ。低リスクという結果は発症しないことを保証するものではありません。実際に発症する方の中には、遺伝的リスクが低いとされる層の方も多く含まれます。公的な検診は年齢・性別等に基づく推奨に従って受けてください。
低リスクなら生活習慣に気をつけなくてよいですか?
いいえ。PRSは遺伝的な素因のみを反映しており、喫煙・食生活・身体活動・体重・飲酒などの要因は含まれていません。これらは発症リスクに大きく影響するため、低リスクの場合も生活習慣への配慮は重要です。
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