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遺伝子検査のROI・予算影響をどう説明するか|理事会説明のために

活用法

「何年で元が取れますか」という問いに、誠実に答えるにはどうすればよいか。事業としての投資対効果と予算影響を語るときの前提の置き方と、不確実性を隠さずに説得力を持たせる説明の組み立てを整理します。なお本記事が扱うのは事業計画としての説明であり、医療経済学で用いられる正式な費用対効果分析とは別のものです。

ゲノ先生ミライさんの対話

ゲノ先生のイラスト

先生役

ゲノ先生

遺伝や検査の仕組みを、根拠ベースでやさしく解説する案内役。

ミライさんのイラスト

質問役

ミライさん

読者の疑問や不安を代弁しながら、理解を深めていく相談役。

ミライさん
ゲノ先生、理事会で「何年で元が取れるのか」と聞かれました。正直、答えに詰まってしまって……。
ゲノ先生
とても自然な質問だけれど、実は答え方が難しい問いなんだ。ここで根拠のない回収年数を出してしまうと、あとで必ず苦しくなる。
ミライさん
では、どう答えればいいんでしょう。
ゲノ先生
まず、この事業がどの段階の効果を狙っているのかをはっきりさせることだね。発症抑制による医療費削減を狙うなら、効果が出るのは数年から十数年先。その前提を共有せずに回収年数だけ議論しても、噛み合わない。ただし、もう少し手前で説明できる筋もある。がん検診は、集団全体で見た費用対効果に構造的な課題を抱えていて、全員一律に配ることで生じる偽陽性対応や過剰診断も総コストに含まれている。ここにリスクに応じた配分を持ち込めば、総額を増やさずに効率を上げられる可能性がある。実際、乳がんではPRSによる層別化検診が従来の年齢ベース検診より費用対効果の面で優れるという分析も報告されている。理事会には、そうした研究の存在と、自分たちの事業でこれから何を測るのかを、分けて示すといいよ。
ミライさん
時間軸を先に合わせるんですね。
ゲノ先生
そう。次に大事なのが、何と比べるかだよ。ここがポイント!費用対効果は必ず比較で決まる。同じ予算で他に何ができたか。たとえば健診の受診勧奨の強化、保健指導の拡充、別の福利厚生。この比較なしに、単独で「効果があるか」を論じることはできないんだ。
ミライさん
「やるかやらないか」ではなく「何と比べるか」。
ゲノ先生
その視点があるだけで、議論の質が変わるよ。それから、効果をお金だけで測らないこと。加入者の満足度、健康への関心の高まり、健保からの情報発信への反応、保健指導への参加のしやすさ。こうした非金銭的な効果は、福利厚生としては十分に評価対象になる。
ミライさん
数字にならないものを、どう説明すればいいでしょう。
ゲノ先生
無理に金額へ換算しないほうがいい。アンケートの数値や参加率など、測れる形で示したうえで、「これは金額換算していません」と明示する。換算の前提を積み上げた金額は、前提が1つ崩れると全部崩れるからね。
ミライさん
たしかに、そういう試算はよく見ますが、根拠が気になります。
ゲノ先生
だからこそ、前提は必ず全部書き出すこと。対象人数、単価、想定する受検率、想定する行動変容率、想定する発症抑制率。そして、それぞれがどこから来た数字なのかを示す。仮定なら仮定と書く。
ミライさん
仮定だと書いてしまって、説得力が落ちませんか?
ゲノ先生
逆なんだ。仮定を隠した試算より、仮定を明示した試算のほうが、はるかに信頼される。しかも、前提を書き出しておけば、悲観的なケースと楽観的なケースを両方示せる。「この幅の中に収まると考えています」という説明は、単一の数字より強いよ。
ミライさん
幅で示す、というのは思いつきませんでした。
ゲノ先生
そしてもうひとつ。初年度は評価のための年、と位置づけてしまうのも手だよ。申込率も、閲覧率も、満足度も、実際にやってみないとわからない。1年目で実測値を取り、2年目以降の試算をその実測値で作り直す。この進め方なら、根拠のない数字を出さずに済む。
ミライさん
ちなみに、学術的な「費用対効果分析」とは違うものなんでしょうか。
ゲノ先生
別物だと考えたほうがいい。医療経済学でいう費用対効果分析は、分析の立場、比較対照、時間地平、費用と健康アウトカムの範囲、将来の割引、増分分析、感度分析、そして健康上の不利益まで、決められた作法にそって行うものなんだ。今日話したのは、あくまで健保の事業計画としての投資対効果と予算影響の説明のしかた。正式な費用対効果を主張するなら、専門家と組んで別途行う必要があるよ。
ミライさん
「まず測る年」と宣言してしまうんですね。
ゲノ先生
それが誠実だと思う。費用対効果の説明で大事なのは、大きな数字を出すことではなくて、どこまでが根拠でどこからが仮定かを、説明する側が正確に把握していることなんだ。

まとめ

  • 1回収年数を単独で論じず、狙う効果の段階と時間軸を先に共有する
  • 2投資対効果は比較で決まるため、同じ予算で他に何ができるかを並べて検討する。医療経済学の正式な費用対効果分析とは別物と認識する
  • 3前提をすべて書き出し、仮定は仮定と明示して幅で示す。初年度は実測を取る年と位置づける

理解度チェック

遺伝子検査の投資対効果を説明するときの姿勢として適切なものは?

A説得力を高めるため、非金銭的な効果もすべて金額に換算して示す
B前提と仮定を明示し、悲観・楽観の幅を示したうえで、初年度は実測を取る年と位置づける
前提を積み上げた金額換算は、前提が一つ崩れると全体が崩れます。仮定を明示して幅で示し、実測値で見直していく進め方のほうが、説明としても事業運営としても堅実です。
C他の施策とは比較せず、この事業単独での効果を論じる

よくある質問

遺伝子検査は何年で費用を回収できますか?
一律の答えはありません。発症抑制による医療費削減を効果とする場合、効果が現れるまでには長い期間を要します。回収年数を単独で論じるのではなく、狙う効果の段階と時間軸、比較対象となる他の施策を含めて検討する必要があります。なお、医療経済学における正式な費用対効果分析は、分析の立場・比較対照・時間地平・割引・増分分析・感度分析などの作法を伴うもので、事業計画上のROI試算とは別のものです。
金額に換算できない効果はどう扱えばよいですか?
無理に金額へ換算せず、満足度や参加率など測定可能な指標で示したうえで、金額換算していないことを明示するのが適切です。前提を積み上げた換算額は、前提が変わると結論が大きく揺らぎます。

参考情報

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